櫻井よしこ

一党独裁体制の下では必ずといってよいほど、国民の命も幸福も、社会の安寧も、軽んじられる。社会を蝕む異常や不条理に関する情報はみな隠される。国民生活は息苦しくなり、弱い人ほど苦しめられる。党や国の面子の前に、多くの国民は命さえ奪われる。これが一党独裁国家の現実である。 こんな悲惨な状況に陥ったことについて、習氏の責任を問う声はまだ大きくはない。共産党にとって自らの生き残りのためにも今はウイルス制圧が最優先であり、指導者の責任を問う余裕はないのであろう。しかし、ウイルスは共産党の土台を深く切り崩しつつある。中国経済が壊滅的影響を受けつつある。米中貿易戦争で成長が鈍化していたところをウイルスに襲われ、中国経済は凍結されてしまった。中国共産党の力の源泉は経済成長による富の分配にある。それができなくなったときの中国国民の怒りには烈しいものがあろう。下からの革命で政権を倒してきた中国の歴史を振りかえれば習近平体制の展望は暗い。